★基本的にFENaや尿中Cl、利尿薬使用していればFEUNかFEUA、ただ最も信頼できるのはボリューム負荷。
臨床上、急性腎不全(AKI)の原因が腎性なのか腎前性なのか区別に迫られる場面は多々あります。
この記事では、その鑑別法をわかりやすくまとめていきます。
尿中電解質、尿浸透圧、FENa, FEUN, FEUA, 生理食塩水負荷それぞれの有用性について理解することが目標です。
急性腎不全:腎性、腎前性の鑑別法
急性腎不全の原因が腎性なのか腎前性なのか、鑑別に迫られる場面は臨床上よくあります。
当然腎性のAKIには色々ありますが、臨床上一番問題となる状況は:
✅腎前性:腎血流量が足りないのが原因
=輸液を負荷しなくてはならない
✅腎性(の一部):腎血流量以外の問題
≒静脈系の血流鬱滞によるAKI
→利尿薬で血流鬱滞の改善が必要
この二つの鑑別です。
なぜなら治療法が真逆になるから。
特に心不全を合併している場合、輸液負荷のハードルが上がるため(心不全悪化リスクのため)、どちらを取るか慎重に判断しなくてはなりません。
この鑑別を一つの指標で行うことは基本的にできず、様々な所見を総合して判断します。
ではみていきましょう!
■尿中電解質
いきなりまとめです:
✅尿Na…脱水で低下:20mEq/l以下
✅尿Cl…脱水で低下:20mEq/l以下(Naよりも他の影響を受けづらい)
✅尿Cre÷血清Cre、尿UN÷血清UN…脱水で高値(濃縮のため)
これら、特に尿Clは「経時的な変化」を追うのに最適です!
スポット尿とって、増えていれば脱水が改善傾向、減っていれば脱水傾向にバランスが傾いています。
血清クレアチニンも脱水であれば増加しますが、尿より反映されるスピードが遅いです(個人的な経験では、約1日くらい遅いと思います)。
これらは基本なので、必ず抑えましょう。
■FENa
FENa=(UNa÷PNa) ÷ (UCr÷PCr) × 100
尿中電解質から計算されるFENaは、腎性・腎前性の判断で最も重要な指標です。
FENa = X%で、(100 - X)%再吸収している、という意味です。
解釈はこんな感じです:
✅腎前性:Na再吸収↑を反映し、FENa低下
→1%未満となる
✅腎性:低下しない
*但し、1%という値自体はあくまで参考
1%が覚えやすいので有名ですが、例外を知っておくことが重要です。
●以下の場合、腎性でもFENa≦1%となりうる
・慢性的に腎虚血の場合
…心不全、肝硬変、腎梗塞
・腎性疾患でも尿細管の能力が比較的保たれている場合
…急性糸球体腎炎、血管炎、造影剤腎症
・腎機能が良い場合
●以下の場合、腎前性でもFENa≧1%となりうる
・利尿薬使用している場合
⇒FEUNやFEUAを代わりに用いる事ができる
⇒FEUN:腎前性は35%以下、ATNは50-65%以上
FEUA:腎前性は12%以下、ATNは20%以上
・腎機能が悪い場合
■その他尿所見
●尿浸透圧
体液量↓⇒抗利尿ホルモン↑⇒尿浸透圧↑
・腎前性で高値:500mEq/l以上
・ATN(腎性)の場合
⇒尿濃縮能が障害、尿と血漿がほぼ等張となる:300-350mEq/l
●尿沈渣
・茶色く濁った顆粒円柱+尿細管上皮円柱:ATNを強く示唆
…ただ、血管炎でも呈しうる
・赤血球円柱、変形赤血球:糸球体腎炎か血管炎(腎性)を示唆
・大量のアルブミン尿(ネフローゼを満たす):糸球体疾患(腎性)を示唆
・正常尿:腎前性、腎後性を示唆(高Ca、MM、腫瘍崩壊などでも呈す)
■輸液負荷
ただ、結局輸液負荷しないとわからないことも多いです。
この場合、細胞外液(生理食塩水など)を使います。
✅ピュアな腎血流↓による腎障害なら、速やかに腎機能改善します
✅ただ、腎前性でも腎障害の要素がある場合、回復は遅くなる
⇒一般的には、腎前性の場合、負荷後24-72時間以内に元まで回復する
⇒戻らなければ、その分ATNの要素ということ
※冒頭で書きましたが、心不全と合併している場合が難しいです。
この辺りはエビデンスがないですが、輸液しながら利尿薬を使う、というプラクティスも、経験的にやられています。
参照 日内誌,体液異常と腎臓の病態生理,UpToDate