★違う経路でアデニル酸シクラーゼ系の不活性化に拮抗するため。
◎救急では稀ですが重要な事項です。しかし、その機序の理解は少々複雑。グルカゴンもベータ遮断薬もcyclic AMPに作用する事が共通しています。
↑このまとめは秀逸ですが、臨床しながら勉強することは難しい。
■cyclic AMP系で主に作用される細胞まとめ
グルカゴン⇒肝,脂肪,膵ランゲルハンス
β刺激⇒心筋,気管支平滑筋
アデノシン(虚血で発現します)⇒血管平滑筋
PGE2, PGI2⇒肥満細胞,血管内皮
バソプレシン⇒尿細管細胞
⇒これらの膜受容体に結合します.
※主な作用対象である事が重要。cAMPは共通しているので、他の細胞にも作用します。
・これらは結果的に,以下の変化に繋がります。
グルカゴン⇒血糖↑(糖新生),脂肪分解↑,インスリン分泌↑
β刺激⇒心筋収縮頻度↑,気管支拡張
アデノシン⇒平滑筋弛緩⇒血管拡張(⇒腎血流↑⇒RAAS系↑⇒血圧↑)
PGE2, PGI2⇒ヒスタミン遊離↓,血小板凝集↓
バソプレシン⇒細胞増殖
■全て,以下の機序によります。
・細胞の膜受容体に結合
⇒隣にあるGsタンパク(α, β, γからなる)と相互作用
※GsタンパクはGDPを放出しGTPと結合
⇒Gsタンパクのαサブユニットが解離(活性化)
⇒隣にある「不活性のアデニル酸シクラーゼ」を活性化する
⇒活性型アデニル酸シクラーゼはATPをcyclic AMP(cAMP)とする
⇒cAMPは,cAMP依存性プロテインキナーゼ(プロテインキナーゼA)を活性化
※詳しくは,プロテインキナーゼAのサブユニット(2つの内1つ)を解離させる
⇓
プロテインキナーゼAは,
①あるタンパク質をリン酸化(=活性化)
※この蛋白質を,cAMP応答配列結合タンパク質(CREB)という
⇒CREBは,cAMP応答配列(CRE)に結合
⇒プロモーター内にCREを持った遺伝子の転写が亢進する
⇒肝:糖新生↑
脂肪:脂肪分解↑
②Na/Kポンプを活性化
⇒細胞内Na濃度↑,K濃度↓
⇒電位依存性Caチャネル開口
⇒Ca流出,細胞内Ca濃度↓
⇒膵:インスリン分泌
血管平滑筋:弛緩=血管拡張
心筋:収縮頻度↑
※段階が進むごとにシグナルが増幅される
-数分子のホルモンが受容体に結合すると,多くのプロテインキナーゼ分子が活性化されます
■β遮断薬中毒
さて、本題です。
・β受容体を介し,上の経路を遮断,プロテインキナーゼAを不活性化します。
⇒除脈,低血圧,時には低血糖
・膜安定化作用(Naチャネルを遮断する作用)ももつ
⇒心収縮力↓
◎これが効きすぎて,中毒になった場合
⇒グルカゴン投与します
⇒グルカゴンは,グルカゴン受容体を介して上の経路を亢進,プロテインキナーゼAを活性化
⇒心筋はグルカゴンのメインの標的ではないですが,ある程度筋にも作用します
⇒β遮断薬の影響を緩和することができます。
■多発性嚢胞腎
・線毛機能低下が病態の主軸です
...これはの機序は以下の組み合わせです。
①細胞内Ca濃度低下
⇒negative feedback解除
⇒cAMP↑
②バソプレシンV2受容体の発現増加
⇒アデニル酸シクラーゼ活性↑
⇒cAMP↑
・よって,バソプレシン受容体拮抗薬が著効する!
.....cAMPを介すという意味ではβ刺激薬でも良いことになりますが、イコールカテコラミンということです。よってカテコラミンの長期投与は、当たり前ですが寿命を短くします。
参照:UpToDate,リッピンコット生化学